研究内容
導波路型光アイソレータ
光集積回路のための異種結晶集積化技術
高機能光スイッチングデバイス
オンチップ光ネットワーク用シリコン波長選択スイッチ
磁気光学効果を用いた自己保持型光スイッチ
光磁気記録メモリ
AIアクセラレータ用の光演算回路
不揮発光素子を用いた畳み込みニューラルネットワーク
光回路を用いた人工ニューロン素子
光導波路を用いた可視光デバイス
磁気光学効果を用いた平面ビームスキャナ
光集積回路
導波路型光アイソレータ
半導体レーザや光増幅器などの光能動素子へ反射戻り光が再入射することを阻止する光アイソレータは、能動素子の動作安定化に必要不可欠です。本研究では、半導体レーザや半導体光増幅器と容易に集積化できるように、半導体導波路で光アイソレータを実現することを目的にしています。アイソレータ動作には磁性ガーネットなどの磁気光学材料を用いる必要があります。半導体導波層の上に隙間無く磁性ガーネットを装荷するために、 ダイレクトボンディング という技術を用い、一偏波のみで比較的容易な磁化制御で動作する、LD集積化形光アイソレータの開発を行っています。
アイソレータは下の図のように動作します。半導体レーザから出力された光(赤色)は、そのまま右方向に伝搬して出力端から出力されます。逆に、外部から反射された光(青色)は左方向に伝搬しますが、半導体レーザには戻りません。これは、磁気光学材料による非相反移相効果(伝搬方向によって光波が受ける位相変化量が異なるという効果)を利用しています。

近年、シリコンフォトニクスと呼ばれるシリコンウエハ上に形成した光集積回路の需要が高まっており、本研究室ではシリコン導波路に磁性ガーネットを貼り付けた光アイソレータの研究も行っています。シリコン導波路はSilicon-on-insulator(SOI)ウエハ上にCMOS互換プロセスで形成されます。SGGGウエハ上に単結晶成長した磁性ガーネットCe:YIG(CeY2Fe5O12)膜をダイレクトボンディングにより直接貼り付けます。これまでに世界で初めて20dBを超えるアイソレーション比の動作に成功し、広帯域動作、温度無依存動作などの提案と実証を行っています。

光集積回路のための異種結晶集積化技術

半導体レーザとその発振安定化に必要不可欠な光アイソレータを集積化するために、格子定数をはじめとする結晶学的に性質の異なる二つの材料系(磁気光学結晶とIII-V族化合物半導体)を集積化する技術を、ダイレクトボンディングという手法で実現しています。
接着剤を使わずにウェハを直接張り合わせるダイレクトボンディングによって、InPやシリコンと磁気光学結晶(希土類鉄ガーネット)を集積化する技術を開発しています。これまでに、InP基板にMOCVD法により成長したGaInAsPやシリコン基板上に、磁気光学結晶膜を200℃程度の低温熱処理でボンディングできることを実証しています。
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高機能光スイッチングデバイス
オンチップ光ネットワーク用シリコン波長選択スイッチ
現状のLSIの高集積化や高クロック化のみによる性能向上は限界を迎えつつあります。 それに対するアプローチとして、回路を要素ごとに分けて考え、ネットワーク的に接続し、機能回路や通信路ごと最適化を図るもの(Network-on-Chip)や、 電気配線を光配線に置き換えることによって、低遅延・大容量の伝送を可能にしようとする考えがあります。

この2つの考えを組合せ、オンチップで光ネットワークを構築することにより集積回路のさらなる大規模化や高機能化を目指す研究をしています。 伝送に光信号を用いることにより波長多重通信を行うことができるようになりますが、波長多重通信用のスイッチ(波長選択スイッチ)を図に示すようにリング共振器とMZI型の光スイッチを用いて実現することを目指しています。

磁気光学効果を用いた自己保持型光スイッチ
光スイッチは、光信号を光のまま処理し経路を切り替えるデバイスで、光ファイバ通信システムを構成するにあたって必須となるデバイスです。 本研究では、光スイッチの集積化と省電力化の両立のためマッハ-ツェンダー干渉計型磁気光学スイッチで光スイッチを提案し、その実現を目指しています。 磁気記録材料を用いて無電力でのスイッチ状態保持を実現することが可能になります。

光磁気記録メモリ
光信号の情報を磁気情報に変換し不揮発に記憶する磁性光メモリの研究を行っています。磁化の記録は、記録層として軟磁性薄膜を利用し、光熱変換を利用した光磁気記録により実現されます。弱い外部磁場を印加した状態で書き込み光を入力し、光吸収による発熱で記録層の保磁力が弱まることにより磁化書き込みが行われます。
記録層に記録された磁化が発生する磁場が再生層となる磁性ガーネット層に作用します。磁性ガーネットの磁気光学効果によりリング共振器の光透過率が変化するため、光信号の再生が実現されます。

AIアクセラレータ用の光演算回路
不揮発光素子を用いた畳み込みニューラルネットワーク
人工知能(AI)は急速な発展を続けており、その演算処理量は膨大になっています。こうした演算に特化した専用ハードウェアをAIアクセラレータと呼び、光による超高速・低遅延の光アクセラレータが注目を集めています。本研究では、磁気光学効果で動作する不揮発光素子を用いることでプログラマブルで低消費電力な光演算回路の実現を目指しています。特に、深層学習において処理負荷が大きいことで知られている畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の積和演算を光集積回路で実装する研究を進めています。

光回路を用いた人工ニューロン素子
ニューラルネットワークは人間の脳の神経細胞の仕組みをモデル化し演算を行う手法で、学習を重ねることで画像や音声などを高精度に認識することが可能になります。基本要素となるニューロンは信号の積算と発火による情報伝達を繰り返すことで複雑な情報処理を行っており、光AIアクセラレータは光回路と光信号でニューラルネットワークを物理的に構成したものです。本研究では、情報伝達を行うシナプスと呼ばれる器官を光回路で模擬し、光信号で動作する人工ニューロン素子の実現を目指しています。実際の神経細胞の仕組みそのものに近い構成により、スパイク発火現象の再現やオンチップでの学習機構を可能にします。

光導波路を用いた可視光デバイス
磁気光学効果を用いた平面ビームスキャナ
拡張現実(Augmented Reality : AR)は現実世界に仮想世界を重ね合わせて表示する技術であり、さまざまな情報を活用して人々の生活を便利で豊かにする次世代技術として注目されています。その最も重要なデバイスはARディスプレイで、本研究では光導波路技術を使ってこれまでにない薄型軽量で視認性のよいスマートグラスの実現を目指し、平面ビームスキャナの研究を行っています。磁気光学効果を用いることで液晶などと比較して高速の光変調を可能にします。
